臺灣に根を張る日本のフラワーアーティスト
▲貴子さんは山に関連する自身の名字と同じく、特に山の植物が好きだと言います。(寫真・Salon Flowers)
文
Joella Jian
編集
下山敬之
寫真
Salon Flowers、Mike Sung
臺北に移住して13年になる嶺貴子さん(以下、貴子さん)は、ここで數多くの美しい景色を見てきました。彼女が臺灣へ移住したのは東日本大震災が発生した2011年のこと。旦那さんの意向で子どもを連れて臺灣へ移住することになりました。
貴子さんは日本でフラワーアートの事業を立ち上げたばかりでしたが、その夢を諦めて3歳の娘を連れ、慣れない異國の地での生活がスタートしました。當時は臺灣について何も知らなかった彼女でしたが、定住するうちに臺北の美しいスポットに詳しい専門家になりました。
臺灣の最も魅力的な點について伺うと、貴子さんはやはり「人」だと答えます。彼女が生まれた東京やアートを學んだニューヨークと比べ、臺北の人たちはリラックスしていて、緊張やストレス、忙しない生活とは正反対で、人々はいつも笑顏で「大丈夫、ゆっくりで良いよ」と聲をかけ、相手を思いやる優しさや気遣いを見せます。そうしたリラックスした雰囲気が彼女を溫かく、心地よい気分にさせてくれました。
幼少の頃、學校から帰った貴子さんは家の向いにあった花屋でもらった花を持ち帰って遊んでいたそうです。公園で遊ぶときにも花や葉っぱを摘むのが當たり前になっていき、そこで學んだ花の自然な形狀は、後の創作活動に大きな影響を與えました。
▲美しいフラワーアートを飾ることで、家の中が新鮮な雰囲気に包まれます。(寫真・Salon Flowers)
貴子さんは成長するにつれて、周囲にある花や草木を見ることで、見知らぬ土地での不安や恐怖を払拭できるようになったと言います。自然の恵みや植物が持つ愈しの力が彼女を和ませ、憩いと安らぎを與えたのです。これこそが自らを愈す方法であり、今回紹介する幸福の形なのです。
Salon Flowers
貴子さんはニューヨークに住んでいた頃、ニューヨークの花卉(かき)產業が活気づいていることを知りました。雑貨屋からオーガニックスーパーまで、至るところに花があったのです。日本でも自分や家族、友人に贈る際に気軽に花を買えますが、この素晴らしい習慣を臺灣にも広め、美しさと喜びのパワーで日常生活を豊かにしたいと考えました。
▲美しいフラワーアートを飾ることで、家の中が新鮮な雰囲気に包まれます。(寫真・Salon Flowers)
彼女は文化の違いを念頭に置いた上で、臺灣に花を贈る習慣を根ざすことを目的として、臺北にSalon Flowersを設立しました。重要なのは花を大量に買うのではなく、気に入った花を數本選び、自分だけの愈しの作品を作り上げて忙しい日常に彩りを添えることです。彼女はSalon Flowersがフラワーアートや植物を愛する人々が集まり、そこで學び、アイデアを交換できる場になってほしいと考えています。
臺灣では、グラジオラスやスイカズラは儀禮用の花と考えられていますが、実は非常に人気があり、日本を含む多くの國では様々な場面で用いられます。貴子さんは教え子たちがこの花を新しい見方で捉えてくれる事を願っています。
在來種を使った創作
臺灣には熱帯植物しかないという誤解があるかもしれませんが、貴子さんは低地で育つ植物から高山植物まで、臺灣にある花の多様性を高く評価しており、「臺灣は山も多く海にも囲まれているので、山の植物も海の植物も手に入りやすいですし、季節ごとに様々な花や植物が見られます」と語っています。
▲嶺さんは特に臺灣の原生植物が好きで、よく生け花のように飾り付けます。(寫真・Salon Flowers)
気候の変化や地域ごとの標高に幅があることから、臺灣には臺灣欒樹(タイワンモクゲンジ)や白千層(ハクセンソウ)などユニークな在來植物が豊富です。「輸入されたものよりも臺灣の在來種が好きです」と話す貴子さんは、臺灣に自生する野草や野花を自身のフラワーデザインに取り入れています。
そのため、貴子さんは臺北の大きな花市場が好きで、特に內湖にある臺北花市場や臺北の中心部にある建國假日花市場を探索します。建國假日花市場には地元で栽培された原生植物が數多く展示されているほか、盆栽や切り花、野花、蘭などフラワーアレンジメントで使用する多種多様な植物が販売されています。
季節の花が一番新鮮で長持ちするそうです。「花を選ぶときには二十四節気に合わせるのがオススメです。例えば、春には香りの良いマリーゴールドやスイートピーが素敵なインテリアになりますし、花や植物を最も適した季節に見られるのは幸せなことです」と貴子さんは話します。
春の臺北を歩く
春の訪れとともに臺北は綠と花が溢れます。「道端に咲くスイートピーが春の訪れを感じさせてくれます」と話す貴子さん。彼女は桜やレモンマリーゴールド、シジミバナなどこの季節を彩る花が好きです。これらの色とりどりの花は街に活気を與えてくれます。
▲いろいろな花で満ち溢れる、春は臺北で素敵な季節です。その季節には、貴子さんは散歩をするのが好きです。(寫真・Mike Sung)
貴子さんの趣味は、晴れた日に歩いて臺北の各地にある様々な植物を見て回ること。特に臺北植物園の中には異國の花や植物があるほか、蓮池エリアや多肉植物エリア、シダ類エリア、ヤシの木エリア、仏教植物エリア、民俗植物エリアといった専門的なエリアに分かれていて、園內の景観や香りが季節によって変化します。この植物園は日本時代の重要な研究拠點であり、現在保存されている植物の數は臺灣、日本、中國、東南アジアのものを合わせて2000種類に及びます。
愈しのライフスタイル
貴子さんは近所の花屋さんを訪れることを勧めています。時間がある時に気に入った花や植物を持ち帰り、それを適した場所に置きます。また、ベランダでハーブを育てるのもオススメです。仕事から帰った時に可愛らしい植物が迎えてくれますし、その甘い香りに包まれて眠りにつくと、一日の疲れを愈すために植物が寄り添ってくれているかのような気持ちになります。
▲フラワーアートは、貴子さんや花を愛する人たちにとって自らを愈す手段です。(寫真・Salon Flowers)
「誰でも日々、少し時間をとって植物や花のお世話をすることはできます」と彼女は言います。「葉の剪定や鉢植えの掃除、水替え、植え替えなどは簡単にできますし、これらの作業は私たちの生活のペースをリセットし、日常の喧騒やせわしなさから開放させてくれます」。貴子さんは、植物の世話をすることが自らを愈す手段と捉え、自分だけの愈しの時間を作り出しています。
ぜひ今年の春は臺北を訪れ、貴子さんがオススメする花や植物のある生活を取り入れ、日常に愈しの時間を作ってみてはいかがでしょうか。